昨日に引き続き、2019年にStrength and Conditioning Journalに掲載された「ストレングス&コンディショニングセッション中にアスリートの変革的リーダーシップ行動を増加させる戦略(Strategies to Increase Athletes' Transformational Leadership Behaviors During Strength and Conditioning Sessions.)」の紹介(第2回)をします。
文献の詳細は↓
Smith, V., & Moore, E. W. G. (2019). Strategies to Increase Athletes' Transformational Leadership Behaviors During Strength and Conditioning Sessions. Strength and Conditioning Journal, 41(2), 31-37. doi:10.1519/SSC.0000000000000422
昨日の記事を読む方は こちら から。
昨日の記事ではこの論文の「はじめに」の前半部分を紹介しました。スポーツ場面におけるリーダーシップについての先行研究紹介がいろいろされていました。私が特に面白いと思ったところは、非公式リーダーシップという概念です。キャプテンや副キャプテン、ゲームキャプテン、ポジションリーダーなど、さまざまな「公式」リーダーは特定の人に割り当てられ、数が限られていますが、非公式リーダーシップは全てのメンバーに可能性があります。そのチームへの所属感を高めるためにも、活用可能な概念だと思いました。また、論文のテーマにも出てくる「変革型リーダーシップ」という言葉も出てきました。今日の内容で変革型リーダーシップがどのようなものかについて、より理解が深まってくると思います。それでは、昨日の続きをどうぞ。
効果的なリーダーシップ行動
リーダーの行動は、自己認識(例:パフォーマンス能力に対する認識)、信念(例:自尊心)、態度(例:スポーツを楽しむ)、動機、パフォーマンスなど、さまざまな形で他者に影響を与える(20)。効果的なリーダーが構築する関係性を通して、彼らは他者を動機づけ、確信させ、安心させ、支援する(21)。アスリートによって報告されている非公式リーダーの主なリーダーシップ行動はインスピレーションの活性化、個別の配慮、理想化された影響力であった(10)。
インスピレーションの活性化にはSCCがストレングス&コンディショニングセッション中にロールモデルとなれる行動が含まれる。たとえば、リインフォースメント(強化)フィードバック、ハッスル(盛り上げる)フィードバック、頑張りを引き出すための発言などである(24)。強化フィードバックは、言語的称賛あるいは非言語的称賛やポジティブな発言で、アスリートがやっていることについて言及していくものが含まれる。ウェイトルームに限定した例であれば、チームメイトのエクササイズテクニックの強化(例:最後のスクワット、良い深さだね!)や、上手くなったこと(例:バックスクワットの新パーソナルレコード、おめでとう)、努力(例:今日、追い込んだね!)などがある。ハッスルフィードバックの例は、アスリート達が仲間を鼓舞し、トレーニングセッション終盤の頑張りや質を高めることである。
ポジティブな強化フィードバックを受けることの重要性はさまざまな領域の研究で示されており、ひとつのネガティブなフィードバック、あるいは罰に対して最低5つのポジティブな励ましを受けることが個人の目標達成を助けるとも言われている(25)。より多くの強化フィードバックを受けることで、より頑張ることができ、より効力感を得られ、パフォーマンスが向上する(25)。トレーニング中にコーチはこの種のフィードバックを与えるが(トレーニング中のフィードバックの4-21%(24))、チームメイトも同じく強化フィードバックを与えることが可能である。より多くのアスリートが非公式リーダーとなり、ポジティブな強化フィードバックを得られるチャンスがより多くあれば、もっと多くのアスリートが1つのネガティブな強化フィードバックや罰に対する最低5つのポジティブ強化という比率を経験しやすくなる。
個別の配慮には非公式の同僚間メンターシップが含まれる。ストレングス&コンディショニングトレーニングでは、アスリートは年齢や能力レベル、スターターと控え選手、スポーツのポジション、さらにはスポーツ種目を超えて一緒にトレーニングする可能性がある。この柔軟さゆえにアスリートがさまざまな特徴を持った人と触れあう機会が増え、トレーニング内外での質の高い同僚間メンターシップ関係を促進することに繋がる可能性がある。アスリートが教え合うときにも、指示的フィードバックや技術的フィードバックを提供しながら個別の配慮を示す。実際、アスリートは多くの非公式のアスリートリーダーがいることで「より多くの一対一ワークと個別支援」を経験できると述べている(10, p.360)。
理想化された影響力にはロールモデルとなることと背中でひっぱることが含まれる。Holmesら(19)は、アスリートらがロールモデルと背中でひっぱるリーダーを求めていることを発見した。SCCがロールモデルとなることに加えて、SCCはアスリートがこのリーダーシップ行動を練習することを奨励することが可能である。ロールモデルとは同僚が指導、支援、助言をもとめる個人のことをいう(1)。トレーニングセッションの後にウェイトルームをSCCの期待通りに片付けるアスリートは他のアスリートが真似できる行動を実際に行って実例として示している。ストレングス&コンディショニング文脈でのロールモデルとなる特異的な例として、正確なテクニックで動作を行うやりかたを、他のアスリートに視覚的なロールモデルとしてデモンストレーションするのに時間を割くことが挙げられる。これら2つの例での同僚アスリートは大きな影響力を持つようになれる。なぜならその同僚は現在同じ経験をしている、あるいは過去にその経験をしたことがあるからだ(12)。同様の経験をし、同じ相対的レベル(すなわち同僚対コーチ)でいることは、ピア(仲間による)ロールモデリングの卓越性を高める(12,33)。言い換えれば、SCCと比べて、ピアロールモデルはより話しやすく、アスリートに近しい存在である。あなたの立場に近い人が現在トレーニングを困難に思っていたり、近い過去にそのような経験をしていたことを知っていれば、その経験を普通だと思えるようになるだろう(12)。この類似性はメンティーであるアスリートがトレーニングでの挑戦を完了させ、その利益を得るのを強化することに役立つ。メンティーであるアスリートと類似したロールモデル(すなわち、他のアスリート対SCC)がより多くいることで、理想化された影響力はより効果的となる(30)。
上述の3つの変革型リーダーシップ行動はトレーニングの状況の内外で練習することができる。しかし、スポーツと比べて、ストレングス&コンディショニングトレーニングセッションに特異的な側面があり、SCCがアスリート間にこれらのリーダーシップ行動を促進できる機会にもなる。まず、ストレングス&コンディショニングトレーニングエクササイズはチーム全体として行われるというよりも、主として個人によって行われる。たとえば、スクワットをしている個人はその運動をするのに他者に依存してはいない。一方、ほとんどのチームスポーツでのドリルは、少なくとも他のアスリート一人が一緒にプレーしており、その人のパフォーマンスによってはドリルの成否が変わってくる。これは特筆すべき差である。なぜなら、同僚がさまざまな方法で支援を提供できること(例:スポッティング、モチベーションを高めるフィードバック、強化)を意味するからだ。また、SCCがアスリートのトレーニングを個人向けに修正したり、ケガのためにスポーツの練習に参加できないアスリートの支援をしたりできることも意味している。さらなる利益として、普段の練習では一定の小集団(例:スターターと控え選手、ポジション、学年、年齢)に分けられているアスリートたちを、SCCがトレーニングパートナーやグループを組むときに混合させられることが挙げられる。つぎに、SCCはスポーツのポジション、健康状態、スターターか否か、学年や年齢に関係なく全てのアスリートと活動を共にすることが挙げられる。3つめとして、SCCが働くトレーニングスペースは、アスリートたちがスポーツを練習する場よりもコンパクトであることが多い。よりコンパクトなスペースにいることで、SCCは全てのトレーニングセッションにおいて、より直接的にそして個人的に個々のアスリートと相互作用が可能になる。特記すべき最後の側面は、他のコーチとは違って、チームに所属する個々のアスリートとの関係性を構築できる可能性を大きくしているという点だ。目標達成に向けた活動を構成していくにあたって、良好な関係性がその基盤となるため(21)、SCCは他のコーチよりも全てのアスリートのリーダーシップ行動を増加させることに貢献する状況を手にしているようにもみえる。アスリートトレーニングの他の側面とともに、SCCとスポーツコーチングスタッフは、スポーツのセッションとストレングス&コンディショニングのセッションを超えて、アスリートのリーダーシップ経験を豊富にしていくよう協力することができる。アスリートのためにトレーニング文脈をこえて行われる密な情報交換に加えて、SCCがトレーニングセッションで提供した異なる非公式リーダーシップ行動の機会にアスリートがどのような反応をしたのかという観察にもとづき、どのアスリートがどのレベルのリーダーシップの責任に適しているのかというSCC視点からの意見をスポーツコーチたちに提供できるかもしれない。
このあと、どのようにしてリーダーシップ行動の練習を現存するストレングス&コンディショニングトレーニング構造に取り込んでいくのかという例を提示する。我々は、これらのアプローチを2つのカテゴリーに分けている。ひとつが、全てのトレーニングセッション中に全てのアスリートにリーダーシップを発揮する機会を提供するもの、もうひとつがリーダーシップの責任をローテーションさせるもので、アスリートは毎日ではないが定期的に少し大きめのリーダーシップを経験する機会を得る。
この部分では、S&Cコーチがトレーニングルームでトレーニングを指導するやりかたを工夫することで、身体的なトレーニングの効果を出すだけでなく、アスリートのリーダーシップスキルを向上させることが可能であるという理論的な背景の説明が行われていました。S&Cコーチの仕事に特化したかたちで書かれていますが、S&Cコーチを単純に「コーチ」として読むことも可能だと思いました。コーチから指示を出してアスリートに従わせるだけのコーチングをしていると、本当はもっと多くのことを学ぶことが可能なスポーツ現場なのに、その学びの機会をコーチが奪ってしまっていることになっているのかもしれません。
最後の部分で書かれていたように、このあとはS&Cトレーニングセッション中に、①どのようにしてアスリートみんながリーダーシップを発揮する機会を手にするようにするのかと、②リーダーシップの役割ローテーションを取り入れたリーダーシップ発揮を練習する機会の創出についての話となります。明日は①の部分、明後日は②の部分について紹介したいと思います。
一連記事のリンク(2020年6月8日追加)
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