2020年度前学期 体育学部スポーツトレーニング論B 第5回
効果的なフィードバック
第5回目の授業のテーマは「効果的なフィードバック」です。運動学習理論を学んだ時、アスリート自身の中で適切なフィードバックを行うことがスキル向上に不可欠な要素であることを述べました。運動を実施するのはアスリートであり、アスリート自身が自らの意志でどのように体を動かしていくかが問われるスポーツにおいて、スキル向上に関する最も重要な観点はアスリート自身が主体的に自分をコーチングしていくことにあることは想像に難くありません。
そのことを大前提におきつつ、コーチの果たすべき役割を考えていくことが重要です。アスリートが自分の力でできることがたくさんあります。自分でできるところをコーチが良かれと思って手伝うことで、一人でやる能力を奪い取っているなどということも十分考えられます。とは言うものの、自分の修正すべき点が自分ではよく変わらない場合があるのも事実です。コーチが、アスリートとは違った視点を提供したり、アスリートと同意することを教えてあげたりすることとで、アスリート一人だけで頑張っているよりも、より高い効果をあげることが期待できます。このようにアスリートが一人ではたどり着けないものの、より知識ある他者(More Knowledgeable Other:MKO)に関わってもらうことで、一人では行き着けない領域(発達の最近接領域Zone of Proximal Development:ZPD)に到達することが可能になります。MKOはうまく足場を用意してあげる(Scaffolding)ことが重要になってきます。
ここでいう、アスリートがZPDを経験し、その領域へ到達することを支援するMKOがコーチということになります。アスリートをコントロールするのではなく、あくまでもアスリートが一人では行き着けないときに、触媒的に働くことで、アスリート本人の力を引き出していくような関わり方が求められるのです。
今日の授業では、MKOとしての働きとして重要な役割を果たす「フィードバック」に焦点をあてて、いろいろ思考を巡らしましょう。事前課題としてみなさんに「効果的なフィードバック」と「効果的でないフィードバック」について考えてきてもらいました。9:00の時点でみなさんから提出された課題をとりまとめ、授業資料としてみなさんにお渡しします。第2回の授業で行ったのと同じような作業を行うことになります。しっかりとみなさんがこれまでに経験した「効果的なフィードバック」と「効果的なフィードバック」の情報をもとに、効果的なフィードバックとはどのような特徴があって、どのようなフィードバックは避けた方が良いのかを考えてみましょう。
事後課題も第2回の事後課題と同様に、この作業をまとめていくことになります。
このタスクを終えた後、フィードバックに関する学術的な知見も紹介します。フィードバックについては学校体育の領域で、子どもたちに対する教師行動の研究として数多く行われてきた経緯があります。今回は主に体育教師の行動を研究した2つの論文をもとに、どのようなフィードバックが有効と考えられるのかについて検討してみたいと思います。現時点ではみなさんの発想に影響を与える可能性があるため、次の回の最初の読み物として準備をしておきたいと思います。